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熱帯雨林から戻った私を出迎えてくれた、2リットルの冷たいコーラ。

この味は生涯忘れる事はないだろう。

お世話になった村の村長とオフロードバイクの2人乗りでジャングルを駆け、川を渡り、未舗装の村から1日かけてアスファルトが見える街に帰ってきた。

そのガソリンスタンドにて。


『アマゾン河にドラードはいない』かの開高先生も冒険家達もそう口を揃えた。しかし、実際はそうではなかった。

私がアマゾン河に黄金を探す旅を始めたのは3年前になる。

アンデス山脈を水源地とし、アマゾン河最大の支流となるマデイラ川のさらに幾重にも重なる支流のその先。

14日間の冒険の末にたどり着いたその地は、人の手が全く入っていない大自然と人情が今も青々と残っている。

インディヘナの村から借りた木彫りのカヌーを手で押しながら歩いて上流へと進む。釣りをして、キャンプしてまた上がりの十日間。

今回の目的は、去年はロゴもないようなプロトタイプだったエルホリゾンテ80の写真の、いわば化粧直しである。

相棒の製品版を確認し、釣り上げて写真を再び撮る。それだけのための目的なのか、と言われればそれは言葉が詰まってしまう。

違うのだ。それは大義名分であり本心では無い。

なぜなら、その釣りでホームタウンとなったこの村とドラードのことが大好きになっている自分がいる。

むしろこの場所に帰って来るためにエルホリゾンテ80を仕上げてきた、と言い切れてしまう。

20年前、当時17歳であった私は、魂を揺さぶる開高先生の一節に出会った。

 

『さすが。

ティーグレ・デ・リオ。河の虎。

頭から尾まで全身に火薬がみっちりつめこんである。

渾身の跳躍。不屈の闘志。乱費を惜しまぬ華麗。

生が悔いを知る事なく蕩尽される。

パラグァイ河とドラドの名誉がここにあっぱれ顕現する。』

 

いつかは自らの手でこの猛魚を抱きたい長年想い続けた憧れの夢は、いままさに、現実に、叶っている。

文豪の一節は何一つ違わず真実だった。

 

1m15kgにもなるカラシンが黄金の矢のようにルアーに襲いかかってくる。

魚体を全て水面から出し、灼熱の太陽を浴びて金色に光輝くドラード。

コップを持つ手が痛い。

猛魚との駆け引きで腫れた腕の痛みは、ドラード釣りを思い返すひと時。

確かに今年もドラードは強靭で、気高く、燦然と輝いていた。

それ以上に、この魚に出会うため、この村に帰るための旅に戻ってきた自分が嬉しい。そんな時間だった。

ふと見れば、2リットルあったコーラが半分になっている。

村には電気がない。こんなにキンキンに冷えたコーラは、ありえないご馳走なのだ。

コーラを飲む、なんて普段だとなにげないこの行為も、旅を振り返る道中にあれば大きな意味をもつことを再認識させられる。

電気がある、というだけで心から感謝なのだ。

もちろん電気のないあの村でも、たくさんの感謝がある。

インディヘナの仲間と食べる食事、飲み物、寝床、遊び。どれひとつにおいても義務感などなく、笑顔で受け入れてくれる村の仲間たち。

言葉なんて挨拶以外まともには通じないこの世界で、同じ人間である、ということを認めあえるだけで人は親切になれる。

心からの感謝が産まれる。

もちろんこちらからも本来の仕事である身体の治療も施すが、釣りのサポートに加え、たった数日ですら私の夢を支えてくれることは本当に有難い事だ。

それをまた返しに戻って来る。地球の裏側だとしても。

それがいつも私の思う、旅だ。人がいて、魚がいる。

1年後にまた会おう!

そう言って私を送ってくれた村の人々。

家族と呼んでくれる仲間達との約束は、私が思っているより強い絆、感謝の溢れる旅だった。

また一つ一つの思い出が次々と浮かんでくる。

気づけば2リットルあったコーラは、空になっていた。

2018/9/15 Bolivia

今年もまた同じ土地・いつもの仲間と黄金を探しに…

ロマンを求めて夢を釣って参ります!