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治療の旅

一度竿を出したら帰り道の事などあまり頭になかった。

急ぎ足で岩だらけの激流をカヌーと共に下る。

村に戻って来たのは日が沈んだ後であった。

『どうだドクトル?デカいドラードは釣れたか?』

と仲間達が声をかけてくれる。

『最大は12kgまでだったんだ!ありがとう!また来年戻って来るよ!』

と話が弾む。

お世話になっているペスカドールの自宅に戻ると、出稼ぎに出ていたファブリカーノ家の長男が帰省していた。

深刻そうな表情で左肩を押さえながらこちらを見ている。何かを訴える目だ。

早速話を聞いてみる。スペイン語は日常挨拶程度しか話せないので問診は困難を極めるが、患部を診たら一目瞭然だった。

鎖骨骨折である。受傷から時間が経過して偽関節となっていた…

(骨折した部位がつながらず2つに分かれて治癒してしまう事)

詰みだこうなってしまっては私はどうする事も出来ない。

きっと私なら治してくれるだろうと思ってくれていたのだろう。

感謝と申し訳ない気持ちが同時に込み上げてくる。

『あなたの骨は2つに分かれてしまった。もう手術しないと治らない。骨は折れてから直ぐに治療しないと治らないんだ

解剖学書を片手に説明する。

どうする事も出来ないが仕方がない。病院には行きたくないようなのである。モヤモヤした気持ちのまま荷物をパッキングして床についた。

 

翌朝起きると目の前に手動ミシンが置いてあった。

『ドクトル!これも治せる?』と女将さん

んッ!?いやちょと待って笑。

『チャレンジしてみる。多分無理だ』

と伝えたが案外簡単に直ってしまった。ボビンが引っかかって部品が曲がっていただけだったのだ。

 

大切なミシンだったようで凄い喜びようであった。きっと旦那さんのプレゼントだろう。

こうやって人が喜ぶ顔をみるのが私の釣旅の醍醐味の1つでもある。

 

 

チャオチャオドクトル!

帰る私に皆が手を振ってくれる。

来年もまた来よう!

バイクの2人乗りで次の街まで2.3時間の道のりだ

サンタクルスのバスまで少し時間がとれたので、去年お世話になった日本人移住地区サンファンに顔を出してきた。

3年前に出会ったアミーゴ達は結婚して子宝にも恵まれていた。産後4ヶ月との事で先ずはお子さんの先天性股関節脱臼をチェック。

次はお母さんである。やはりお子さんが大きくなる36ヶ月で首周りのトラブルが出やすいのは万国共通である。

毎回診察出来るのであれば話は別であるが、やはり大切なのは壊さない事だ。特にボリビアには私の様な治療家はほぼいない様なので、トレーニング方法やセルフメンテナンスの方法を告げて勉強してもらう。

1年後にまた元気に再会しようと約束してサンタクルスに向かうバスに乗った。

次の冒険が待っているからだ。